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“ものづくり「はじめまして」から「だいすき」まで”。そんなコンセプトをもとに生まれたアソビル3階『MONOTORY』は、ものづくりを気軽に楽しむことのできる施設です。
ここでは、毎日が誰かのものづくり記念日。その架け橋として活躍している、MONOTORYオフィシャルアーティストたちにも、「はじめまして」から「だいすき」になるまで、たくさんのストーリーがあったはず。
今回は「タティングレース」のワークショップを開催しているfiligne|フィリーニュさんに、ものづくりを始めたきっかけや、思いについて聞いてきました。
タティングレースとは、16世紀のヨーロッパで生まれた技法のこと。「タティングシャトル」と呼ばれる、先のとがった楕円形の用具に、レース用の糸を巻き付けて編むことで、美しいレースが出来上がります。
馬車での移動中など、空き時間に良く行われていたそうで、その手軽さが長く愛される理由の一つです。洋服のレース部分としてあしらわれたり、雑貨やイヤリングなどのアクセサリーとしても、いろんな表現ができるハンドメイドです。
filigne|フィリーニュ プロフィール
幼少期からパッチワーク教室をする母の影響を受け、手仕事に興味を持つ。10年間のアパレル勤務ののち、タティングレース技術を習得。
2012年、独自のブランドfiligne(フィリーニュ)を立ち上げる。現在、タティング教室やワークショップ、各イベントなどで活躍中。
出版書籍は「filigneのタティング」(日本ヴォーグ社刊)
ものづくりを始めたきっかけはなんですか?
子供の時から母が自宅で服を作ってくれたりしていたんです。今で言う「ハンドメイド」が常に身近にある環境でした。一緒に作ることもありましたし、余った材料を勝手に使って、自分で作ることも。
その頃から、母がパッチワーク教室をしていて、母が先生として教えている姿がとても記憶に残っていて、小さい頃から「教えること」に興味は持っていました。その時はぼやっとしていたけど、自分もいつかそんなふうに何か先生ができたらなぁと思っていたのは覚えています。
「タティングレース」とはどのように出会ったんですか?
10年ほど前に夫の転勤で、引っ越し、退職という生活の変化がありました。
初めての東京、慣れない土地で、1人の時間ができた時、改めて趣味がないなぁと感じました。そこから、自分が何に夢中になれるのかを探そうと思ったんです。フラワーアレンジメントやキャンドル作りに刺繍など、気になったものを色々と試しましたね。
そんな時に、たまたま本屋さんでタティングレースの本が目に入って。「タティングレース」という言葉自体が初めて聞くものだったので、「何だろう」って思ってその本を手に取ったのがきっかけでした。
当時はまだワークショップを探してもなかったので、本を読んだり、数少ないYouTubeの動画を見たりしながら覚えていきました。
コツを掴んでいくうちに、一気にはまってしまって、初めて自分がいくらやっても飽きないものを見つけた感覚でした。いろんな手芸をやってきたけど、これ一本でやっていこうって思えたんです。
一番大きかったのは、必要な道具とか材料、場所が最小限で済むということ。スキマ時間で始められるし、続けやすいんです。
シャトルとハサミと糸さえあればいいので、準備も片付けも楽。ミシンを使ったり、布を広げたりしなくていい分、気軽さはありました。
仕事にするために、どんなアクションを起こしたんですか?
すでにハンドメイドでブランドをしている方が、近くで個展やポップアップされてる時に、ちょっと勇気を出して見に行きました。子供を背中に抱えながら、
「突然すみません。失礼なことを聞くのですが、これってどんな風にお仕事にされたんですか?」
とデザイナーさんに直接聞きに行ったりしてました。
みなさん共通しておっしゃっていたのが、好きなことをやり続けていく中で「たまたまこういうきっかけがあって」とか、「知り合いが売ってみない?って言ってくれて」とか縁の話をされる方がすごく多かったです。
最初の一歩が一番、緊張したり、大変だって話も聞きました。でも、スタートした後は不思議なくらい色々なことが動き始めるから、まずは「一歩踏み出してみる」って自分で決めて、動き出すのが大事だよって、いろんな方が背中を押してくれて。
そんな頃、自由が丘を散歩していた時に、ハンドメイドのソーシャルネットワークサイトの会社が路上でたまたまイベントをしていて、そこで配っていたチラシを手に取ったんです。
帰宅してゆっくり見てみたら、びっくりするくらい手頃で簡単にネットショップを開けるって内容でした。これなら始められるかもと思って、サイトを作ったのが初めのきっかけでした。これもまた縁ですね。
自分で始めるぞって決めていなかったら、通り過ぎていたかもしれないし、気づきもなかっただろうなとは思います。
まずは何かしよう、何かしたいって気持ちがなかったら、何にもアンテナに引っかからない。やりたいことがぼやっとしていてもいいから、アンテナを貼って街を歩いたり、本を読んだりしたら何か違うんじゃないかなぁと思っています。
ものづくりと向き合っていく中で、壁にぶつかる時はありますか?
お仕事としてやるには、教室にしても、ブランドをやるにもオリジナルのデザインでやっていかなきゃいけないので、それが次々に生まれてこない時に難しさを感じます。新しいデザインを生み出そうっていう時に、やっぱりぶつかりやすいですね。
初めて自分の本を出させていただいた時にも、たくさんのデザインをまとめて考えなければならないということに初めてチャレンジして。
「あー、自分って新しいものを生み出すのが得意じゃないんだなー」と思って、ずーっと机で紙と向き合っていると、すごく追い込まれることもありました。なんでできないんだろって、自分を責めたりもしましたね。
どうやって乗り越えるようにしていますか?
一緒に本を作っている編集者さんたちが話してくださったのが、とにかくできるところまで考えた後は、潔く切り替えること。
自分の中にいっぱいアイデアをためて、もうこれ以上無理!というラインまではできるだけ一生懸命考えて、そのあとにお風呂に入るとか、寝るとか、ちょっとスイッチを切る。そういう無意識の中でアイデアってまとまるんだよとおっしゃっていて。
考えすぎると、逃げ場のないような感覚で堂々巡りをするんですけど、それって気づかず足踏みをしていることもあって。だから、スパッと机から離れて、切り替えるようにしました。寝たり散歩したりお風呂入ったり。そんなリズムを作るようになりました。
アイデアってどんなものから浮かんできますか?
インスピレーションは街中が多いです。
街中にあるタイルだったり、門の柵に使われている模様とか。「あれをタティングレースで表現したらどうなるんだろう」って考えたりしてます。デザイン書を見るよりも、歩いていて自然と目にとまったものから派生することが多いですね。
レッスンではどんなことを大事にされていますか?
タティングレースを仕事にしようって思った当時は、出版されている本も少ないし、言葉自体も聞き慣れないし、知らない人の方が多かったです。でも、これを知って私のように楽しくなる人や、趣味を見つけられる人が増えるんじゃないかなと、勝手に思っています。
だから、私が教えたことによって「これだめだ。難しい」って投げ出す人が出ないようにしたいなって思います。
教室をやると決めた時は、自分のやっている手の動きとかを、伝わりやすい言葉にすることから始めました。
自分の感覚だけで伝えてしまうと、生徒さんの顔の曇りが取れないまま、レッスンを終えてしまうことも最初はあったので、一つのことでもいろんな言葉で伝えられるようにしています。質問してくださった生徒さんがスッキリした顔になってくださる言葉を常に探しています。
基本的に、ただ教えるというよりは、その方が自ら楽しめるようになるお手伝いをしたいと思っているんです。だから、レッスンの中で「何回来てくださいね」とか、「次はこうしましょうね」という案内はあまりしなくて。つまづいた時などに、辞書を引くような感覚で気軽に教室へ来てくださると嬉しいです。
どんな人にレッスンを楽しんでほしいですか?
なんとなく趣味探しをしているっていう方には、一度試しに体験してみて欲しいな〜と思います。
お仕事や子育てをされていて、隙間の時間が限られている方。どこでもパッと準備して楽しめるので、ハンドメイドは好きなんだけど、趣味に使える時間が限られている方に知っていただけたら楽しいんじゃないかなって思います。
–本日はありがとうございました。
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眺めているだけでワクワクが止まらない、カラフルな糸が並ぶボックス。自由に好きな色を選んで、気分の上がる2時間を過ごしていただきたいという思いから、常にたくさんの色を揃えているそう。
カチッと型にはまることなく、人それぞれに楽しんでいただくことを大切にされているフィリーニュさん。
心から好きだと思える事とのふしぎな出会い、自分ではない誰かにもそんなご縁が訪れるように。ポジティブに試行錯誤を続ける姿に、優しいパワーをいただきました。
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